道場コラム 『前向きな雰囲気』

『前向きな雰囲気』 2019年8月

 「子どもは親の背中を見て育つ」・・・立派な親の姿を見て、子どもも同じように頑張って生きていく、という意味で使われる言葉だが、子どもが見ているのは、親のたくましい大きな背中だけではない。
 親が世の中を否定的に見て愚痴や不満ばかりを言っていると、子どもは表面的には同調しつつも、内心では違和感を覚え、仕事での愚痴を言うだけで、自分ではどうにかしようとしない。そんな親を冷めた目で見ている。「大変だね、お父さん」と言いながらも、「でも、それを何とかするのが、お父さんの仕事でしょ」とどこかで考えている。そしてテレビを見れば芸能人の悪口を言う、そうした親の姿もしっかりと子どもたちは見ている。
 もちろん、愚痴を曝け出したりそれを受け止めたりできるのは、家族という関係性があるからだろう。しかし、愚痴や不満など常にネガティブな発言が多くなってしまう家庭環境は、開放的な雰囲気のよさは認めるが、子どもの成長にはよくない。愚痴や不満が出たとしても、そこで「どうすればいいか」という発想に切り替えられることが大切だ。
 例えば、楽しみにしていたお出かけの日に朝から雨が降っていると、気持ちも晴れない。しかし、雨という逆境こそ、ポジティブさが響く。「じゃあ、屋内で楽しめるところはないかな?」と会話が自然に始まる前向きな雰囲気を家庭ではつくっておきたい。そういった発想を持った家庭では、誰も「前向きでいよう」と意識することは少ない。それが当然のことになっているからだ。このような家庭環境であれば、子どもには、自然に向上心が備わっていく。
 ではどうするか。最初は、表面的なかたちから入ってみるのもよいだろう。多少違和感があっても、かたちをつくることで、徐々に意識も伴っていく。雰囲気が教育する、まさに薫陶だ。
 家庭内での問題について、家族全員で共有して解決することを意識してみるとよい。家族揃ってご飯を食べることがなかなかできないという問題があったとしたら、「朝ご飯だけでも、みんな一緒に食べよう」「週に1回、日曜日に家族揃って食べる時間をつくろう」といった解決案を家族全員で出し合ってみる。大事なのは、実際に解決できるかどうかということより、そのために何か手を尽くそうとする雰囲気が家庭の中にあるということ。子ども自身が失敗や困難に直面したときに試行錯誤しようという意識は、そこから生まれてくる。
 家族だからこそできる雰囲気づくり。それは、親子が互いに自分を曝け出し、本音で話し合える関係をつくることだ。そうすることで、前向きな会話ができ、ポジティブな雰囲気をつくることができる。そのためには、まず親が本音で話す。すると、子どもも親に本音で話すようになる。それによって、お互いの思いを深く分かち合うことができ、問題解決もしやすくなる。実は、こういった会話が子どもの考える力を育てる。たとえ問題解決には結びつかなくても、互いの本音が見える会話をすると、それだけで親も子も安心できる。子どもを自立した一人の人間と見なして向き合うからこそ、本音で話すことができる。親が子どもに本音を曝け出すことが、子離れの一つのかたちとも言える。

西郡学習道場代表 西郡文啓