花まる教室長コラム 『悔しさをバネに』

『悔しさをバネに』2019年7月

 サマースクール「サムライの国」は、1年生から6年生までの子どもたちがチームを作りサムライ合戦(刀を持って相手の腰についている風船を割っていくスポーツチャンバラのようなゲーム)を行うコースです。勝った高揚感や負けた悔しさなど、様々な感情が子どもたちの内に巻き起こり、いろいろなドラマが生まれます。前回のサムライの国では、心の底から悔しい思いをした二人の男の子の姿がとても印象に残りました。

 一人目は、サムライの国に初めて参加した2年生のYくん。戦ってきたリーダーや仲間に「がんばったね」と声をかけたり、キャンプファイヤーのダンス対決では恥ずかしがらずに体を思う存分動かして「楽しかった!」と素直に伝えてくれたりする、純粋な子です。
 初めてのサムライ合戦前、Yくんはワクワクしながら戦略を自分なりに考えて仲間と話し合っていました。そうして迎えたサムライ合戦では、何度目かの試合で大将に任命されました。大将の役割は、やられてしまうとそこでチームの負けが決まる、将棋でいう王将です。「できるかなぁ」と少し緊張を見せながらも挑戦。しかし、すぐにやられてしまいました。おそらくその次の試合でも簡単にやられてしまったようでした。その現実が受け止められなくて「最悪だ…。家にいた方がよかった。テレビを見たいなぁ。戦略が間違っていたんだ…」 と後悔や現実逃避の混ざった言葉を繰り返していました。
 サマースクールの最後の日に、子どもたちはリーダーが書いた賞状を受け取ります。私は彼に送った賞状に、彼が戦略を考えていた時のキラキラした様子と、合戦で悔しい思いをしたことを書きました。その上で「何度でも挑戦できる。悔しさをバネにしてがんばってほしい」とエールを送りました。渡しながら、「初めてでよくがんばったよ。少なくともリーダーは一生懸命にがんばっていたあなたの姿を見ていたよ」と伝えました。しかしYくんは首をふって涙ぐんでいました。嫌な気持ちを吐き出してもらおうと思い「何が一番悔しかった?嫌だった?」と聞いても彼からはうまく言葉が出ませんでした。
 今の彼には賞状を受け取ることが辛いのはわかっていました。しかし、彼がいつかこの賞状を見返して、「こんなこともあったな」と苦いけどいい経験だったと思い返す素材になれば、と思って渡しました。
 今回、どうしようもない悔しさを体感した彼。今は思いを吐き出せなくても、悔しさを上手く飲み込めなくてもいいから、悔しいと感じたことこそ価値のある経験として、彼の今後のためのこやしになればと願います。

 5年生のHくんは、生活面では分別のあるお兄さんとして年下の子を見守り、サムライ合戦では、経験者として的確なアドバイスをチームの仲間に知らせていました。各班の代表戦になった合戦の終盤、私は彼の活躍ぶりを見て、代表に任命しました。
 3チーム三つ巴の対戦。1チーム敗れ、2チームが熾烈な争いを繰り広げるなか、最終的に敵チーム二人対Hくん一人になりました。不利な中、Hくんが一人を倒して、ついに一騎打ちに。その場の全員が見守る中、見ているだけでも息が詰まりそうな戦いになりました。身をかわし、かわされ、刀を振るい、体勢を立て直し…。なかなか決着がつかず、どちらかが動きを止めればそこで試合終了ということになりました。
 ギリギリの戦いの末、Hくんはわずか1秒差ほどで敗れました。勝負がついた瞬間「ああ、悔しい…」と涙をこらえながら空を見上げてつぶやくHくん。そんな姿を見て「よくがんばった」と声をかけつつ、こちらももらい泣きしてしまうほど熱い戦いでした。勝負のあと、ライバルの二人は爽やかに肩を叩き合っていました。
 その夜、サマースクールがどうだったか班の子たちに一人ずつインタビューをしているとき、自分から「話を聞いてほしい」とHくんが言ってきました。もちろん、最後の戦いについて。「あの戦いでは負けてしまって本当に悔しかった」 と、再び涙をにじませる彼。「だけど、最後のギリギリまで粘れたのはよかった。来年こそは一番のサムライになりたい。次はもっと強くなることが今年の目標」
 心はすでに次のサムライ合戦を見据えている様子でした。悔しいままで終わらなかったのは、Hくんが全力で戦い抜いたからでしょう。この経験を自信につなげて、また次のサマースクールに帰ってきてほしいと思います。

 サムライの国は、悔しい思いをすることが多いコースです。Hくんのようにうまく気持ちを切り替えられた子もいれば、Yくんのようにその場では切り替えられない子もいる。どちらにしても「悔しい」と強く感じたことが次への原動力になるはずです。
 最後に、最終日に書いたHくんの作文を抜粋します。
 「S(一騎打ちの相手)の一げき一げきがおもく、こっちも負けてはいけないと本気でかかりましたが数秒差で負けました。とてもくやしかったです。ここで本当のくやし泣きをしました。こんな楽しくくやしく、そしてこんなに燃えたのは、今年はじめてでした」

永見 真里佐