花まる教室長コラム『伝染する勇気』柳田有芽乃

『伝染する勇気』

「まなんだこと」
かわあそびでとびこみをするのがあとちょっとだったおんなのこがないた。だからみんなでおうえんをした。ぼくたちがかえるときわかった。ああみえてもゆうきがあるんだな。そのときまなんだ、だれにもゆうきはあるんだな。

 これは、サマースクールに参加した1 年生のK くんが書いた作文です。
 K くんは、川遊びで飛び込みに挑戦しました。水面から1 メートルほどの高さから一人ずつ飛び込みます。K くんは、そのときに起きたこと、見て感じたことを作文に書き残しました。
一列に並び、飛び込みをする場所へ向かいます。前に並んでいた仲間がやすやすと飛び込んでいき、少しずつ近づいてくる自分の順番。右を見ると、飛び込む川。周りを見ると、楽しみでしかたがない仲間たち。ドキドキが止まりません。
 次第に恐怖心も芽生えてきました。いざ、自分の番になると足がすくみ、 涙も出てきました。 リーダーが、「A ならできる!」 と声をかけます。飛び込みが終わったリーダーや同じ班の仲間が「A なら飛べるよ!」「がんばれ!」と応援をしてくれました。そしてついにA ちゃんは勇気を振り絞り、川へ飛び込むことができました。
 こうして、 「飛べない」 「怖い」と言っている子でも、ほとんどの子が飛び込みにチャレンジします。いろいろなことを一緒にやってきた仲間、そして応援してくれる仲間や大人が近くにいたからこその経験です。
 自分の中にある少しの勇気と仲間からの応援があれば、どんなことにも挑戦できることを、このときK くんは学んだのでした。

 また、こんなこともありました。K くんはトマトが大嫌いです。小さく切られているトマトは鼻をつまめばなんとか食べられますが、大きいトマトには挑戦できず、そのトマトとにらめっこをしていました。
花まるの野外体験には、食べ始めてから最初の2 分間は、苦手なものに挑戦した人・頑張って食べた人に「おめでとうコール」を送ります。
 僕もおめでとうコールをしてもらいたい、K くんはそんな気持ちで大きいトマトに挑戦しました。K くんは一口食べるごとに頭を抱え、悶絶しながら食べ続け、気づけば完食していました。
 勇気を出して挑戦しているK くんの姿を隣で見ていた、四年生のY くん。Y くんにも苦手な食べ物がありましたが、何も言わず毎食完食しました。最終日、バスに乗る前にお家の人に一番伝えたいことは何か聞いてみると、「苦手なものに挑戦したこと!」と言います。理由を聞いてみると、 「K くんがあれだけ頑張って食べていたら、僕も頑張らなきゃ。食べてみようかなって思ったんだ。 」 と話しました。
Y くんはK くんの姿を見て、勇気をもらったに違いありません。
 自分の中にある小さな勇気、そして仲間が頑張っている姿、応援、いろいろなことが重なって、自分もやってみよう、と挑戦することができたのだと思います。

 サマースクールでは、たくさんの小さな勇気が大きな勇気へと変わりました。誰もが持っている小さな勇気を、どう大きな勇気へと変えるか。一人だったら乗り越えられなかったことも、仲間がいるから頑張れたのです。
 大人から見れば、小さなことかもしれませんが、 子どもたちにとっては大きな一歩です。大人がいるから頑張れることもあれば、仲間がいるから頑張れることもあります。勇気は人から人へと伝わっていきます。仲間の勇気を見て、感化されるのが野外体験です。
 
 まもなく、次の夏がやってきます。今年のサマースクールでも一人ひとりの小さな勇気が多くの子どもたちに伝染し、大きな勇気となることを願っています。

花まる学習会 柳田 有芽乃