花まる教室長コラム 『伝えたくて 伝えたくて』前原匡樹

『伝えたくて 伝えたくて』2022年6月

 9月、私が担当している「高学年プラス」では「デザイン」という授業を行いました。デザインと言っても、ただ「ステキな」「映える」デザインを作ることが目的ではありません。「自分が相手に伝えたいことを伝えるためには、どんなレイアウトがいいのか、どんな素材なら伝わるのか」など、「伝える目的を達成するためのデザイン」について考えてもらうことが真のゴールでした。
 製作終了後、数名に発表してもらいました。子どもたちも、大人も、「デザインの裏には、何か伝えたい意図がある」と頭の中ではわかりつつ、実際に発表者の完成品を見ると、どうしても見た目のインパクトに目がいってしまいました。一人目の作品に対して、「桜の細かいところまで書けている」「色使いが美しい」など、キレイさについての感想が目立ったのです。

 ところが、ある女の子の発言で、みんなの意識が戻されました。
「Aくんの『春』の文字が、桜の花と木を同じ色で、Aくんが『本当に桜が好きで、春が好きなんだなぁ』と伝わってきた」

 一瞬クラスの空気は固まったのですが、すぐに拍手が生まれ、その拍手からは、「そうだよね、見た目勝負の時間じゃないもんね」という声が聞こえてくるような気がしました。それ以降、子どもたちのデザインを見る目が変わりました。「作者は何を伝えたいのだろうか」、そこに目を向け、それを肯定する発言が増えたのです。子ども間で刺激し合った、素晴らしい空間でした。

 さて、私もこのときの子どもたち同様に、子どもに「表現されたものの見方」を教えてもらったことがあります。花まる学習会のサマースクールでの出来事。サマースクール最終日、子どもたちは作文書きの時間があります。「タイトルの言葉を工夫すると、読む人が惹きつけられるよ!」「自分が考えたこと・気持ちを書こう!」「五感を使うと、読み手が読んでいておもしろいと思う表現ができるよ」「特に楽しかったことを深堀して書くといいよ!」など、私がレクチャーをした後、子どもたちの作文タイムがスタート。
 子どもたちの書く様子を見ていると、2年生のBくんの作文が目に留まりました。たくさん書いているのですが、こんな内容だったのです。
「二日目のあさに、川あそびをしました。川あそびしたら、バスにのってホテルにかえりました。おひるはカレーでした。そして…」

 私はこれを見たとき、「もしかして、とりあえずやったことを書いている?これを見たとき、お母さんはどう思うかな?」と焦ってしまい、この子のそばに腰を下ろしました。そして、一緒に言葉を引き出そうと、「たくさん書いているね。特にBがおもしろかったのは何かな?」と話しかけました。
 すると、Bくんからはこう返ってきたのです。
「コング、ぼくえらべない!お母さんにサマーのことを全部伝えたい!」
 この言葉を聞いて、焦って軌道修正しようなど、大人の都合で動いていた私は大反省でした。この子は「サマーに来ていないお母さんに、すべてを伝えたい!」一心で、思い出せる限りやったことを書いていたのです。「やったこと・あったこと」をそのまま書く子の裏にこんな気持ちがあったとは、私もまだまだ子どもの気持ちを理解できていないな…と、また一つ子どもを見る視点が増えた気がしました。

 作文もデザインも、似ていると思います。「伝えたいこと」を言葉にできて、そのうえで「どうやったら伝わるか」を、相手をイメージして組み立てる。もちろん、Bくんのように、低学年の子にとっては「相手をイメージして組み立てる」という思考が、まだまだ難しいかもしれません。思いついたことを勢いで書いてしまうこともあるかと思います。しかし、子どもたちの書いている文章には、「何かを伝えたい」という気持ちが隠されているかもしれません。その気持ちを子どもたちからすくいあげ、毎回の作文への原動力につなげられるよう、これからも教室での「作文発表会」「作文添削」に努めていきます。

花まる学習会 前原匡樹