高濱コラム 2004年 9月号

空前のメダルラッシュに沸くアテネ。本命視の重圧の中で、先陣として結果を出し、勢いを呼び込んだ谷・野村両選手の貢献は勝負師として特筆に価するものですが、出るだけでもすごいオリンピックでのメダリストたちには敬服します。

ただ、中年になったせいか、若い頃と違って、単に勝った負けたに共感して一喜一憂するというより、その背後に見え隠れする彼らの人柄・家庭・人生・生き様などに、引き付けられている自分がいます。才能とスタッフ力で勝利した人よりも、どん底や雌伏の時代を経験し這い上がってきた人の精神力などに感動を覚えます。

中でも、アーチェリーで20年かけて銀メダルを獲得した41歳の山本選手の「一人息子のヒーローになりたくてがんばってきた」という言葉には、味わいを感じました。徐々に落ちていく体力や集中力を感じながら、何度も苦しいときがあったでしょうが、家族の存在ががんばりの原動力になったんだな、世のお父さんたちも同じだよなあと、温かい気持ちになりました。

さて私自身は、いつも以上にサマースクールにどっぷり浸かった夏でした。初めての貸しきり電車「花まる号」での旅で、音楽隊のパレードを導入したことや、アウトドア基礎訓練コースという、よりハードなプログラムを若手中心で開発したことなど、進歩も見られた一方で、反省も多々ありました。

中でも、一人の男の子がスズメバチに刺されてしまったことが、大きな反省材料になりました。飛んでいるのを見ることは例年のことですが、巣にさえ近づかなければ大丈夫ということで、一度も事故はありませんでした。今回はやや飛来数が多いというので、地元の専門の方にあらためて前日に敷地中確認作業をしてもらっていたにもかかわらず、まさかこんなところにという盲点に巣作りをしていたことに、気づけなかったことが原因でした。

刺された直後は、急いで口で毒を吸出し、氷で冷やして、すぐに病院に連れて行ったので、症状としては軽く済んだのですが、おあずかりした宝物に傷をつけてしまったことで、ひどく落ち込み、万全のつもりでこれでは、もうやめてしまった方がいいかもしれないとまで思いました。

しかし、最終の回、尾根一つ向こうは大雨なのに、何故か私たちのいる谷の上空は快晴でした。川を下流から上っていく沢登りをしたのですが、集中してルートを選択し、深場ではリーダーがリレーで子どもを渡したりしながら、苦労してたどりついた先には、きれいな虹のかかった滝が待っていました。先頭の少年たちは「おーい、滝が見えたぞー!」と、高揚した声で叫び、ややひ弱に見えた子どもたちも、その頃には鋭い目つきになっていて、「子どもなりに危険を感じる冒険」で、いかにパワーを呼び覚ますかを痛感させられました。足の不自由な子が、「大丈夫、上れる?」と後に続く子に手を差し伸べる姿も印象的でした。

夜は夜で、星の説明をしているときに次々に流れ星が落ち、歓声があがりました。台風で大雨かもという予報を吹き飛ばすかのように。そんな一日を終えて、私は「大丈夫。お前はそのままがんばれ!」と、大自然から応援メッセージを受け取っているように感じたのでした。

花まる学習会代表 高濱正伸