高濱コラム 2010年 3月号

 2月、花まる学習会およびスクールFCに在籍してくれた6年生向けに、卒業記念講演を行いました。日頃から、「大人たちは、人生について、子どもたちにもっと語るべきである」と思っていることもあるし、ちょうど思春期の波浪に船出する時期もふさわしいので、塾長とか先生という立場ではなく、たんに人生の先輩として、心を込めて語りました。

 その中でも今年、力を入れたのは「異性を学べ」という点です。家族というのは良いもので、その存在があるからいろいろと頑張りぬける。しかし、愛だ結婚だでくっつくときは本能のパワーでいけるけれども、長い結婚生活を乗り切るのは、全く異なる生き物である男と女がどこまで歩み寄れるかの努力にかかっている。ところが現実は、男として・女として生きてきた人生観を「人として当然だろう」と思い込んで、異性の異性らしい本質を理解できずに、「何でこんなに話を聞いてくれないんだろう」「何でこんなにイライラするんだろう」と、お互いに苦しんでいる夫婦がいかに多いか。職場でも同様なのだよ。

 その原因は、思春期の経験にある。人を好きになるだろうけれど、ただその気持ちに翻弄されずに、「異性を理解しよう」と学ぶ気持ちでいてほしい。そうか、女の人は気遣ってほしいし気付いてほしいし、話を聞き続けてほしいんだな、男の人は理詰めで考えないと考えた気がしないし、子どもっぽくて勝負が好きなんだな・・・。そういう学びを積み重ねてほしい。

 親を見ていて思い当るのか、皆じっと聞いてくれました。一生の講演歴の中でも、もっとも輝く瞳が私の目の前に並んでいました。感想には「僕は、一生をだいなしにしたくないので、女性に気遣いを忘れない人になりたいです」「私は、友達と『男子ってガキだよね』と偉そうに言ってましたが、思い上がりだとわかりました」というような可愛らしく、しかし熱いものが多かったです。幸せな人生にしたいという真剣な気持ちが伝わってきました。

 その他にも、中間・期末といった定期テストは、小学生時代と違って、少しずつだけれど着実に将来の進路を決定するテストなんだから、がんばるようにということ、その学習の仕方(特に数学と英語のノート法)などもよく聞いてくれました。部活があったことで楽しい中学時代を過ごせた人が多いよ。悩みはいろいろ出てくるだろうけど、そんなときは「体を鍛える」ことだけは間違いないからね、私もよく煮詰まったら走っていたよ。22才から先は荒波で思うようにならないことだらけ。思うようにならないこととどう渡り合っていくかが大事なんだけれど、最低限「我慢できる人」は、居場所がある。いじめはつらいけれど、何とかいじめに遭いませんようにというのではなく、いじめをはねのける人になってください。本・映画・音楽・絵画、何でも良いから深い感動を味わうことができると人生が豊かになるよ。力がある人同士は、どれだけ深い感動を経験した人なのかの競い合いの面があるよ。中学生になったら、もう親に反発するのではなく思いやれる人にならなければね・・・。

 未来が開けた世代の目の光の強さに引っ張られて、自分のいじめの経験談などをまじえつつ、我を忘れて思いのたけをぶつけました。

 最後に伝えたのは日記のことです。ちょうど私も中一になる春から、手書きの日記を始めた。そこには第二次性徴の変化が自分だけとても遅くてコンプレックスだったこと、女の子が気になって仕方なかったこと、憎い同級生にイライラしたこと、汚い自分弱い自分も正直に書いた。そのことでとても救われた。嫌な面も含めてありのままの自分と向き合うこと。これは人として魅力を培う第一歩めだと思う。感じたこと、思ったことをぴったりの表現を考え抜いて蓄積していくこと、それがやがて「自分のことば」になり、人を説得できる力になるからね。

 最後に、人間関係でもっともナイーブな時期だからつらいこともあると思うけれど、本当に困ったらいつでも話しに来て欲しい、ずっと味方だからね、と話して講演を終えました。

花まる学習会代表 高濱正伸