高濱コラム 2010年 12月号

2年生のY君が、幼稚園の門からこちらに全力で走ってきます。顔はクシャクシャのニコニコ。そして教室のある私の前にたどりついて息を切らしての第一声が「あれ、カバンがない」。早く来たくて手ぶらできてしまったのです。すぐに引き返すと、門ではお母さんが仁王立ち。夕日を浴びたその表情は、遠目にも明らかにキレています。カバンを渡すが早いか、彼の頭をペシコーンとはたきました。

とたんに気落ちし肩を落として歩き始めるY君。しかし10歩も歩くともう気を取り直したか、またニッコニコで走りだしてい ました。これぞオタマジャクシ(3年生くらいまでをオタマジャクシ。5年生くらいからは若いカエル。そうとらえて対応をすっかり切り替えると子育てが楽になりますよと、講演会で言っている見方です。)、このような光景を見るたびに、ああ、何て美しいのだろうと感動します。

また、夏の終わりのある日のこと。私は両手両足を、3年生の男女10数名に拘束され、まるでモップのように廊下を引っ張ら れました。授業後のじゃれあいの中からその遊びは誕生したのですが、新しい遊びが生まれた瞬間は子どもたちが最高に輝くときです。「これ、面白い!」彼らのはじける気持ちが伝わってきて、こちらも有頂天になります。小人の国のガリバーさながら、「たすけてー」ともだえてみせると、たくさんの笑顔の花が咲き、「オーエス!オーエス!」の絶叫が響き渡りました。

あなたは何がしたいかと聞かれたら「子どもたちといたい」と答えます。高学年も中高生もそれぞれに美しいのですが、「つのつくうちは神の子」の3年生くらいまでは、また独特の可愛らしさに満ちています。一生懸命考えていても、歩いても走っても笑っても泣いても。そんな彼らと一緒にいたいがために、問題意識を深め、預けたいと思ってもらえる実力をつけ、効果的な指導を編み出してきたようなものです。目の前に一人のY君がいてくれること、モップ遊びを生み出す子どもたちがいてくれることこそが、心の底からの幸せなのです。

オリオン座を見上げ、また一年を振り返るときがやって来ました。一年間。太陽の周りをまた一周、何とか生き抜いたぞ。子どもたちに囲まれてありがたかった。しかし、この一回りの間には色んなことがあったなあ。夜空の星々を見ながら、しみじみと思い出しました。

3月、情熱大陸。大変な反響でした。新聞や雑誌に取り上げられる回数も増え、BS放送や地方局ではサマースクールの模様も 放映されました。場所を提供するから教室を開かないかと言ってくださる方も出てきました。本だけでなく写真集も(思い出に残る子どもの写真を撮る方法:草思社)上梓できました。心意気だけで踏ん張り続けてきた、障がい児への学習指導ならびに心の相談部門も、NPO化したことで、例えば月刊福祉の連載を依頼されるというような形で、認められるようになりました。

大きくなることへの心配をしてくださる方もいますが、私は楽観的です。なぜなら、この広がりは、子どもが大好きで子どもと居たくて情熱の炎を燃やせる若者が、一人またひとりと結集してきてくれている結果だからです。本当に魅力的な若人がたくさん集まっています。来年以降の花 まるに大いに期待してください。

2010年が終わろうとしています。支えてくださった皆様のおかげで、私たちは、今年も生き残ることができました。本当に、ありがとうございました。大みそか、私は、いつものように「また来年も、子どもたちといられますように」と祈りながら眠ることにします。どうぞ、よいお年を。