松島コラム 『10分の1』

『10分の1』 2015年12月

社会事業家を育成、応援するプログラムを行っているNPOがある。市場の失敗分野への果敢な挑戦によって、単なる社会の課題を解決するのではなく、新しい市場価値を創出していこうとするプログラムである。教育においても社会的課題は山積みである。そのNPO主催のイベントに応援する側として参加してきた。起業を志す若者が、メンターやスポンサー、エンジェルの前で5分程度のプレゼンを行い、彼らが事業内容に共感すれば、資金や場所の提供、人脈の紹介などの具体的な話が始まる。それはさながらオーディション番組のようだった。プレゼンターは言葉を研ぎ澄ませて猛烈にアピールを行う。業種、職種、キャリア、年齢を越えて、人と人がつながっていくと、予想を超えたイノベーションが起きていく。
 このプログラムのポリシーに、「10分の1」というものがある。「10人中9人が素直に納得して“いいね”と言うものよりも、10人中9人が“これは絶対無理!”と言われる中、1人だけが“これは絶対に面白い!”と強烈に共感し応援するような、独自の世界観と情熱を持った挑戦者を選びます。」というものだ。大半が“いいね”と答えるようなものは、すでに世の中に存在していて、そこからはイノベーションは起きにくい。ノーベル賞受賞者のインタビューの中にも、既成概念からの脱却、発想の転換、原点回帰など、「みんなとは対極の視点を持つことでその発見に至った。」というような話が出てくる。周りから見たら狂気の沙汰のようなことが社会を変えることもあるのだ。
 だから、このプログラムに参加する若者にはいわゆる「尖った人材」が多い。情熱的で前向きであり、個性的で人を魅了する力を持っている。私も大いに刺激を受けた。そして何よりも彼らがその挑戦自体を楽しんでいることに感動した。横並び、没個性、事なかれ主義などと揶揄されてきた日本の教育システムの中でも、こういう人材がちゃんと育っているのだ。だからこそ、今注目されている教育改革が正しい方向に進むことがとても重要になってくる。
 もともと子どもは怖いもの知らずのイノベーターである。大人では考えられないような世界観、その独創性は本当にすばらしい。合科授業でも常識を超えた発想、奇抜なアイデアに驚かされることもたくさんある。子どもの才能というものは、普段は埋もれていて、たまに一瞬ニョキッと顔を出すものだ。その自然と顔を出してくる尖った部分が将来の人生につながる大切な芽になるかもしれない。たとえ1勝9敗であってもその1勝の中にその子の光り輝くものが見つかるなら、それを認めてあげたい。9人の人が否定しても1人の人が信じてくれるなら、子どもはそれを希望とする。ならばその1人になってあげたい。
 子どもと接するときは、この10分の1の“1”にこだわりたいと思う。