『ごほうび語尾の魔法』2026年9月
「大人相手にしないことは子ども相手にもしない」教室で子どもたち、特に幼児を前にしたときに大切にしていることです。「〜しなさい」は言わない。それは命令だからです。「する」か「しない」か。相手が考える余地を残す。これは、大人相手に、仕事を頼むときも同じではないでしょうか。「これをやってください」よりも、「してもらってもいいですか」。あるいは、「してくれるとうれしいです」。命令ではなく、お願いです。
最近、花まるの教室長たちの間で合言葉のようになっている言葉があります。それが「ごほうび語尾」です。「席に戻った人から、次のページを開けてもいいですよ」「何か書いてあるね。準備ができたら、読んでもいいですよ」子どもたちは、「してはいけない」よりも「してもいい」に敏感です。
不思議なことに「ごほうびだよ」と言って渡されたものはなんでも少し好きになっちゃうし、やりたくなっちゃう。隣の子がごほうびをもらっている様子を見ると自分も欲しくなる。集団ならではの力学も働きます。
その子が少し頑張れば超えられるくらいのハードルのものを、「ごほうびとして」渡してあげる。「やらせなきゃ」とも思わない。プレゼントをあげる気持ちで提案するのです。幼児は次に何をしたらいいかわからない時間も苦手です。彼らにとっては数十秒の待つことも永遠にも思えるものだから。ですから、すぐに「次はこうしてもいい」と見通しを示します。
もし「〜しなさい」を言い続けることで、子どもたちがその通りに動くようになったとしても、それは「自分で考える」ことを手放す人を育てていることになりかねません。大人が言うから、その通りにする。自分で考え、自分で決める体験を奪われ続けると、やがて子どもたちは、「これ、やってもいいの?」「先生がやって」「まちがえたらいやだからやりたくない」そんな言葉を口にするようになります。
反対に、小さなことでも、自分がやりたくてやっている、やるかどうかを決めたんだ、という実感をもつことは、自分で考えたい、という学びの意欲につながっていくのです。
以前、小学校の先生からこんな話を聞きました。「りん先生が来ますよ」そう伝えると、一年生たちが「知ってる!!」「年長さんのときに来た!」「やーーさしい先生だった!」と言ったそうです。不思議でした。自分では決して甘かったとは思っていなかったからです。 90分の授業で、どれだけ子どもたちの力を伸ばせるか、いつでも必死ですし、規律やマナーにはむしろ厳しくあったはずです。でも子どもたちの心にそうやって残っていたのは多分、「自分は信頼してもらえていた」という安心感があったからではないでしょうか。
先生と子どもも、あなたとお子さんも、対等な人間。命令して押し付けて、言うことを聞かなかったら怒る。そんな人間関係はいやだなと思います。子どもを動かすことよりも、子どもが自分で動きたくなること。命令ではなく提案を。コントロールではなく信頼を。
「〜してもいいですよ」そんな言葉の積み重ねが、自分で考え、自分で決める力を育てていくのだと思います。
井岡 由実(Rin)
